ビジネス文書は簡潔に、端的に書きましょう。
まず「主張」をはっきりと。
主張? 何か自己主張しなきゃダメですか?
「◯◯するべきだ!」とか?
ビジネス文書などでは「まず主張を明確に」と教えられることがあります。
でも仕事のメールで「主張」を書くことって、あまりないような・・・
今回はビジネス文書における「主張」について考察してみましょう。
ビジネス文書に「主張」は必要か?
まずは辞書による「主張」の意味から。
しゅ‐ちょう【主張】
[名](スル)自分の意見や持論を他に認めさせようとして、強く言い張ること。また、その意見や持論。「—を通す」「自説を—する」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
ほら、「主張」って「私は犬より猫派だ!」とか「この夏は海に行きたい!」みたいな自己主張でしょ?
仕事のメールで「私は◯◯が好きです」とか「私は△△したい」なんて主張する機会はあんまりないですよね?
むしろ「お願い」とか「質問」とか「報告」とか・・・
たしかにそうですね。世の中の仕事の多くは組織やお客様に挟まれながら進めるものです。「自分の主張」を持ち込む余地はありません。
むしろ、仕事のメールに必要なのは「相手への指示または要望」です。
- 添付の資料に目を通してください。
- 期日までに企画書を提出してください。
- 質問事項について、ご返答ください。
- 報告内容に問題がないか、ご確認ください。
などなど。
この場合、「まず主張をはっきり書きましょう」は「相手への指示・要望を最初に書きましょう」と言い換えることができます。
指示・要望があいまいだとどうなる?
問題:あなたはお客様対応の担当者です。お客様から以下のようなメールが届きました。これを読んだあなたが最初にすべきことは何でしょうか?
“Web口座振替の手続きをしていたら、最後に「システムエラーです」となり、戻るボタンもなかったために再ログインしなければなりませんでした。ところがメールで届いたパスワードが1回限りのものだったため、「ご入会手続き」のページからやり直すしかありませんでした。おかげでお客様番号のメールが2つも届きました。パソコン教室のホームページなのにこんなに不便で、一体どうなっているんでしょうか? イライラして受講をやめようかと思ったくらいです。もっとパソコン初心者にも配慮したホームページを作ってはいかがでしょうか?”
うっ! お客様かなり怒ってますね。これは早く謝罪しないと。
「このたびは大変ご不便をおかけいたしまして、誠に申し訳ございません。・・・」
いやいや、「クレームは宝」というじゃないですか。
「貴重なご意見をいただき、心より感謝申し上げます。お客様のお声を参考に、ホームページを改善してまいります・・・」
2人とも、大事な一文を見落としていますね。
“Web口座振替の手続きをしていたら、最後に「システムエラーです」となり、戻るボタンもなかったために再ログインしなければなりませんでした。ところがメールで届いたパスワードが1回限りのものだったため、「ご入会手続き」のページからやり直すしかありませんでした。
おかげでお客様番号のメールが2つも届きました。
パソコン教室のホームページなのにこんなに不便で、一体どうなっているんでしょうか?イライラして受講をやめようかと思ったくらいです。もっとパソコン初心者にも配慮したホームページを作ってはいかがでしょうか?”
慌てて謝罪して、お客様の気持ちをなだめることに夢中になっていると、
翌月、会費が二重に引き落とされてしまうかもしれません。
ひゃー! もっとまずいトラブルじゃないですか!
最初に「お客様情報が二重に登録されていないか」を確認しなきゃいけなかったんですね!
もっとはっきり書いてくれたら伝わったのに。。。
「お客様番号が二重に届いていた」という大事な用件がなぜ伝わらなかったのか。理由は2つあります。
- 「二重登録されていないか確認してほしい」という要望が書かれていなかった。
- 感情的な自己主張が後半を占めてしまった。
自己主張ばかりで要望がないために、読み手をミスリードしてしまったんですね。
以下のようなメールなら、最初から正しく伝わったはずです。
“Web口座振替の手続きを「システムエラー」でやり直したため、二重登録されていないかご確認いただきたいと存じます。
お客様番号 ◯◯◯◯◯◯
お客様番号 △△△△△△
氏名 ●● ▲▲
パスワードが1回限りで再ログインできなかったため、「ご入会手続き」からやり直しました。”
最初に相手への要望、次に必要な情報、時系列の説明は最後という順番ですね。
やっぱり「自己主張」は必要なかったんですね。
まとめ
「まず主張をはっきり書きましょう」というのは誤解を招く表現かもしれません。
「主張=自己主張」ではなく「主張=メッセージ=相手への指示・要望」と理解するなら大丈夫。
その指示・要望も「私がこうしてほしいから!」というエゴではなく、「客観的に見て、こうするべきだから」という合理性が必要です。
合同会社ロジカルライティング研究室代表
文章力と問題解決力を育てる専門家。
就職試験の論文をほぼ白紙で提出し3社連続で落とされた敗北感から、論文試験の攻略法を研究。誰でも書ける独自のメソッドを開発した結果、代々木ゼミナールの小論文講師に抜擢され、国語の苦手な理系の受験生から支持を集める。NHK Eテレ「テストの花道」にも出演。
その後、独立し社会人教育に転身。製造、IT、建設、エネルギー業界を中心に大手企業60社以上の社員研修に登壇。「受講した翌日、契約が取れた」「論文試験の合格率が2倍に」「グループワークで出たアイデアがその場で社長に承認された」など即効性のあるノウハウが支持される。また1万5千本以上の添削歴を活かした事後課題の丁寧なフィードバックも好評。
1969年青森県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了(認知心理学専攻)。
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